CULTURE
個人個人の記憶と映画の物語が重なり合う『秒速5センチメートル』
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『秒速5センチメートル』
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映画は、スクリーンに映し出される物語に自分自身が入り込む(感覚になる)ことで、たとえ現実とかけ離れている設定であったとしても、その世界を疑似体験できる。中には琴線に触れる──心の奥深くにある心情を引っ張り出させて大きく揺さぶってくることもあります。『秒速5センチメートル』もそのひとつ。新海誠監督による2007年公開の劇場アニメーションを松村北斗主演で実写化した映画です。
ある想いを抱えたまま大人になっていく主人公・遠野貴樹が、日常のふとした瞬間に“ある想い”を思い出しながら、心のどこかでずっとずっと引っかかっていることに向きあう瞬間を描いた物語です。作品タイトルの「秒速5センチメートル」の意味も、もちろん語られますが、その言葉の意味以上にその先にある思い出、言葉と共に記憶されている人との思い出を指している。主人公の“記憶”に名前がついている、そんなふうにも捉えられます。
人は、過去を抱えて生きています。1秒1秒が過去になっていき、やがて思い出さない記憶になるものもあれば、時々思い出す記憶になるものもある、過去になりきれずにずっと留まるものもある。そういう個人個人の記憶とこの物語が重なり合い、まるで自分ごとのように感情をふるわせる。
原作のアニメーションを観ている人は、その感覚を知っているわけですが、アニメーションを観たときに揺さぶられた記憶(当時自分がどんな感情の揺れ動きをしたのか)も甦ってくると思います。実写映画ならではの描写もあるので、知っているけれど新鮮な気持ちになるはずです。
そして、今回初めて『秒速5センチメートル』と出会う人は、できるだけ情報を入れずに作品と出会ってほしい。自分の中にある感情が、映画を観ることによって引っ張り出される、その瞬間の感覚がそのまま感動につながると思うので──。
壮大な物語でもない、大きな事件が描かれるわけでもない、しかしながら、観終わった後は世界の見え方がワントーン明るく見えるような、自分が抱えている何かがほんの少し整うような、小さいけれど実は大きな変化を感じられるかもしれない。不思議な力を持っている映画です。
| すれ違い度 |
★★★★★
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| 切なさ度 |
★★★★☆
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| 一歩前進度 |
★★★★☆
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原作
新海誠 劇場アニメーション『秒速5センチメートル』
監督
奥山由之
脚本
鈴木史子
出演
松村北斗
高畑充希
森七菜
青木柚
木竜麻生
上田悠斗
白山乃愛
宮﨑あおい
吉岡秀隆
配給
東宝
2025年10月10日(金)より全国公開中
Ⓒ2025「秒速5センチメートル」製作委員会
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