CULTURE
観る人を抱きしめてくれる映画『一月の声に歓びを刻め』
『一月の声に歓びを刻め』
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今回はレビューというよりも、この映画を観て、この映画と出会って、どう感じたのか感想に近いものをお伝えできたらと思います。
たとえば、恋愛において悩みを抱えているときは、共感を得たい、解決策を知りたいと恋愛映画を観る人もいるでしょう。世界を知りたいという好奇心から伝記や歴史を扱った映画を観ることもあるでしょう。
また、偶然に観た映画の登場人物が抱えている心の傷やトラウマが、自身が抱えているものと結びついて、救われたような感覚を得ることもあるかもしれません。『一月の声に歓びを刻め』は、その感覚を得られる映画、観た人の心に触れる映画です。
『しあわせのパン』『繕い裁つ人』『Red』などの代表作を持つ三島有紀子監督が、自身の向きあいたくなかった過去と向き合い、撮らなければならいという覚悟で撮った映画が『一月の声に歓びを刻め』。三島監督が47年前に遭遇した「ある事件」をモチーフにした物語です。
三つの島を舞台にひとつの物語が紡がれます。北海道の洞爺湖、東京の八丈島、大阪の堂島。それぞれの場所でそれぞれの登場人物の生きる姿を描いていますが、みんな何かしら抱えて生きている──。性暴力の被害を受けて亡くなった娘を忘れられないマキ(カルーセル麻紀)。妻を交通事故で亡くし、娘の妊娠に動揺する誠(哀川翔)。6歳のときに性暴力の被害に遭ったトラウマを持つ“れいこ”(前田敦子)。
本来、人の痛みは本当の意味では分からないし、分かりかけたとしても完全には伝わらない。けれど、この映画は目の前に映し出される人たちの心の痛みを感じる。それがこの映画の“力”であり“魅力”でもあります。
物語のなかには性暴力が事件として出てきますが、事件そのものは描きません。けれど、その事件がもたらす痛みは描く。作り手が痛みを知っているからこその描写だと感じました。
人は誰しも痛みや苦しみを抱えていると思います。どんな痛みかどんな苦しみかは人によって異なるとしても、この映画を観終わったとき、心に抱えている重みを少しだけ代わりに持ってもらうような、ぎゅうっと抱きしめてもらうような、そんなあたたかいものに包まれる感覚になる。とてもやさしく、とても力強い映画です。
やさしい気持ちになる度 |
★★★★☆
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生きる強さをもらう度 |
★★★★★
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自分の痛みと向きあう度 |
★★★★☆
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監督・脚本
三島有紀子
出演
前田敦子
カルーセル麻紀
哀川翔
坂東龍汰
片岡礼子
宇野祥平
原田龍二
松本妃代
⻑田詩音
とよた真帆
配給
東京テアトル
2月9日(金)テアトル新宿他全国公開
Ⓒbouquet garni films
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