CULTURE

2021.10.01

佐藤健の新しい一面を目撃する『護られなかった者たちへ』

『護られなかった者たちへ』

「護る」とはどういうことなのだろうか──。愛する人をまもる、家族をまもる、弱き者をまもる、災害からまもる、哀しみからまもる、大切な存在をまもるために自分は何ができるだろう。この映画『護られなかった者たちへ』を観た人は、きっと「まもる」ことについて深く考えると思います。

物語の舞台は、東日本大震災から10年を経た仙台。ある日、全身を縛られたまま放置され“餓死”させられるという前代未聞の連続殺人事件が起きます。容疑者として浮上したのは、利根（佐藤健）という青年。過去に起こした放火事件で服役していましたが、刑期を終えて最初の事件の数日前に出所していました。彼が犯人なのか？　宮城県警の刑事・苫篠（阿部寛）は利根を追いますが、証拠がつかめないまま、さらに第三の事件が起きようとしていて……。

連続殺人事件が起きている【現在】、10年前の震災後の避難所【過去】、2つの時間軸が絡み合いながら、少しずつ事件の真相が明らかになり、背景にある社会的問題も炙り出されます。そして、先に挙げた「まもる」ことについて考えるだけでなく、本来誰もが頼ることができる、いざというときに護ってもらえるはずの社会制度の闇にも言及。

瀬々敬久監督が「震災以降の日本で一番の問題である格差と分断を、真正面から描くことができました。劇中の重要なセリフである『死んでいい人なんていないんだ』という言葉がグッと突き刺さる映画になったと思います」と語っているように、なぜその事件は起きたのかというミステリーのなかに、決して他人事ではない社会問題がある。でも、しっかりとエンターテインメントである点がこの映画の凄いところ。

また、「人と人との繋がり、絆や愛を感じながら撮影させていただいたので、そういったことが観た方に伝わってくれたらうれしいです」というメッセージを残しているのは、佐藤健。殺人事件の容疑者という、これまでにない役に挑み、こんな佐藤健は見たことがないかもしれない、彼の新しい一面を目撃します。

この映画の題材は、たしかに重いです、哀しくもあります。けれどそのなかには佐藤健が言うように、人との繋がり、絆、愛もある。今だからこそ、観てほしい1本です。

ヒューマンミステリー度	★★★★☆
佐藤健の新しい一面度	★★★★☆
うどんを食べたくなる度	★★★☆☆